特例子会社のメリットとデメリット|障害者雇用を深掘りする

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この記事では、障害のある方の就職・転職における有力な選択肢の一つである「特例子会社」について、その本質からリアルな実態までを深く掘り下げて解説します。 「名前は聞いたことがあるけれど、実際はどんな場所なんだろう?」という漠然とした疑問を、具体的なキャリアプランへと繋げるために。この記事を最後まで読むことで、以下の点が明確になります。

【この記事で分かること】
  • 特例子会社がどのような目的で設立され、法律上どう定義されているのかという基本
  • 働く側と企業側、双方の視点から見たリアルなメリットと、知っておくべきデメリット
  • 正社員や契約社員、パートタイムなど、ご自身の状況に合わせて選べる多様な働き方

この記事は、障害への理解や配慮がある環境で、自分らしく働きたいと願う、以下のような方々に向けて執筆しています。

【こんな方におすすめ】
  • 特例子会社に興味はあるが、一般企業での就労と何が違うのか具体的に知りたい方
  • 安定して長く働ける環境を探しているが、雇用の安定性やキャリアパスに不安を感じている方
  • ご自身の障害特性や体調に合った業務内容や働き方が見つかるか、情報収集している方

この記事が、「特例子会社」という選択肢を正しく理解し、あなたにとって最適なキャリアを築くための、信頼できる道しるべとなれば幸いです。

 特例子会社とは?その定義と概要

特例子会社の基本的な定義

特例子会社とは、企業が障害のある方の雇用を促進する目的で設立する子会社のことです。「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、障害者の能力を最大限に活かせるよう、職場環境や業務内容に特別な配慮がなされています。

親会社が設立し、一定の要件を満たして厚生労働大臣の認定を受けることで、特例子会社として認められます。この制度により、企業は障害者雇用に特化した環境を整えやすくなり、障害のある方も安心して働きやすいという特徴があります。

特例子会社制度の概要

特例子会社制度は、障害者にとって働きやすい環境を企業が集中して整備し、雇用を拡大することを目的としています。この制度の最も大きな特徴は、特例子会社で雇用した障害者を、親会社や企業グループ全体で雇用したものとみなして法定雇用率に算定できる点です。

一定の要件を満たすことで、企業は障害者雇用の専門的なノウハウを蓄積しやすくなり、組織全体として障害者理解を深めるきっかけにもなります。

特例子会社での雇用形態

正社員と契約社員の違い

特例子会社における雇用形態も、基本的には一般企業と同様に正社員や契約社員などがあります。これらの最も大きな違いは「雇用期間に定めがあるかないか」という点です。

正社員は雇用期間の定めがない「無期雇用契約」であり、長期的なキャリア形成を視野に入れた働き方が可能です。一方、契約社員は「有期雇用契約」であり、3ヶ月、6ヶ月、1年といった単位で契約を更新していくのが一般的です。

それぞれの特徴を以下の表にまとめます。

項目正社員契約社員
雇用期間期間の定めなし(無期雇用)期間の定めあり(有期雇用)
安定性比較的高い契約更新の可否による
給与・賞与月給制が主。賞与や退職金制度がある場合が多い月給制や時給制など様々。賞与・退職金がない場合もある
福利厚生企業の全ての福利厚生が適用される適用範囲が正社員と異なる場合がある
責任・役割比較的広範で、重い責任を担う傾向がある契約で定められた範囲内の業務を担当
キャリアパス昇進・昇給の機会がある正社員登用制度が設けられている場合がある

特例子会社では、障害のある方が安心して仕事を始められるように、まずは契約社員として入社し、業務への適性や本人の希望、勤務状況などを考慮しながら正社員登用を目指す、というステップを踏むケースが見られます。自身の障害特性や体調、希望する働き方などを踏まえて、どちらの雇用形態が適しているかを検討することが大切です。

パートタイムやフルタイムの選択肢

特例子会社では、正社員や契約社員といった雇用契約の違いに加えて、勤務時間についても柔軟な選択肢が用意されていることが一般的です。フルタイム勤務だけでなく、パートタイム勤務を選ぶことも可能であり、ご自身の体調や生活スタイルに合わせて働き方を調整できます。

フルタイムは週の所定労働時間(一般的に40時間)働く形態で、安定した収入やキャリア形成を目指しやすい利点があります。一方、パートタイムはそれより短い時間で働く形態で、通院との両立や、まずは無理のない範囲で仕事に慣れたいと考える方に適しています。

それぞれの特徴を下記に示します。

項目フルタイムパートタイム
労働時間所定労働時間の上限まで働く所定労働時間より短い時間で働く
特徴・安定した収入やキャリアを目指しやすい
・社会保険の適用が基本
・体調や生活に合わせて時間を調整しやすい
・通院やプライベートとの両立がしやすい
検討する方・体力的に安定している方
・経済的な基盤をしっかりと築きたい方
・まずは短時間から仕事を始めたい方
・定期的な通院が必要な方

特例子会社では、障害のある方の「働きたい」という意欲を尊重し、個々の状況に応じたサポート体制を整えています。そのため、入社時はパートタイムでスタートし、業務や環境に慣れた段階でフルタイムへ移行するなど、働き方を段階的に変更できる場合も少なくありません。自身の希望やコンディションについて、企業の担当者と相談しながら最適な働き方を見つけていくことが重要です。

特例子会社のメリット

法定雇用率の算定に寄与

特例子会社を設立する企業側の最も大きなメリットは、障害者雇用率制度における特例が適用される点です。これにより、親会社や企業グループ全体の法定雇用率達成に大きく貢献します。

通常、法定雇用率は企業ごとに算定されますが、特例子会社制度を活用した場合、特例子会社で雇用している障害者を親会社が雇用したものとみなして、実雇用率に算定することが可能です。

さらに、一定の要件を満たして厚生労働大臣の認定を受けると、「企業グループ算定特例」という制度が適用されます。この制度には以下のような特徴があります。

  • 実雇用率の合算 親会社と特例子会社だけでなく、認定を受けた関係子会社も含めた企業グループ全体で、障害者の雇用数を合算して雇用率を算定できます。
  • 柔軟な人材配置 グループ内の各社の事業内容や特性に応じて、障害のある方を最も能力を発揮しやすい最適な職場に配置することが可能になります。

このように、法定雇用率の算定に寄与する仕組みがあることで、企業は障害者雇用を戦略的に進めるための専門組織として特例子会社を位置づけ、集中的に採用や環境整備を行うことができるのです。

障害者雇用のノウハウの蓄積

特例子会社は障害者雇用に特化した組織であるため、採用から育成、定着支援に至るまでの一貫したノウハウが組織内に集約されやすいというメリットがあります。

一般の部署で障害のある方を雇用する場合、受け入れ経験が少ないために手探りでの対応になることも少なくありません。しかし、特例子会社では多様な障害特性を持つ従業員が共に働くため、組織として体系的な知識やスキルを効率的に積み上げることが可能です。

具体的には、以下のようなノウハウが蓄積されます。

  • 採用に関するノウハウ
    • 障害特性を理解した上での面接方法や実習プログラムの設計
    • 個々の能力や適性に合った業務の切り出し方
  • 職場環境・支援に関するノウハウ
    • 物理的なバリアフリー化や情報保障などの環境整備
    • 個別の状況に応じた合理的配慮の具体的な提供事例
    • 専門知識を持つ支援スタッフの育成や配置
  • 人材育成に関するノウハウ
    • それぞれの特性に合わせた指導方法やコミュニケーションの工夫
    • 長期的なキャリア形成を支援する仕組みづくり

このように蓄積された知見は、特例子会社内での職場環境を継続的に改善するだけでなく、親会社やグループ会社にも共有されます。結果として、企業グループ全体の障害者理解を深め、よりインクルーシブな組織文化を醸成するための貴重な財産となります。

職場環境の整備と支援体制

特例子会社は、障害のある方が安心して能力を発揮し、長期的に働き続けられることを目指して設立されています。そのため、個々の特性に配慮した職場環境の整備と、きめ細やかな支援体制が大きな特徴となっています。

一般の企業に比べて、障害への理解がある従業員が多く、組織全体としてサポートする文化が根付いている傾向にあります。具体的には、以下のような環境や体制が整えられていることが一般的です。

  • 物理的な環境整備
    • 車いす利用者に対応したスロープ、多目的トイレ、自動ドアの設置
    • 誰もが安全に移動できるよう、広く確保された通路
    • 体調に応じて休憩できる休憩室や相談室の完備
  • 業務遂行を支える工夫
    • 手順が分かりやすいよう、写真や図を多用した業務マニュアルの作成
    • 個人の特性に合わせて調整された作業ツールやPC周辺機器の導入
    • 聴覚障害のある方向けの筆談ツールやチャットツールの活用

また、人的な支援体制も充実しています。特例子会社では、障害者職業生活相談員の資格を持つ社員や、専門の支援スタッフが常駐していることが多いです。これらのスタッフは、日々の業務に関する指導だけでなく、体調面や精神面での悩みについても相談に乗ってくれます。定期的な面談を通じて、本人の状況を把握し、職場定着に向けたサポートを行う体制は、働く上での大きな安心材料と言えるでしょう。

特例子会社のデメリット

雇用の安定性の問題

特例子会社は、親会社の経営基盤に支えられている一方で、その経営状況に大きく依存するという側面があります。親会社の業績が悪化した場合、コスト削減の一環として特例子会社の事業規模が縮小されたり、最悪の場合は閉鎖に至ったりするリスクは否定できません。

また、雇用形態として契約社員の割合が高いケースもあり、必ずしもすべての従業員が長期的に安定した雇用を保証されているわけではありません。契約更新の可否は企業の業績や方針に左右されるため、働く側にとっては将来的な不安要素となる可能性があります。親会社から受託する業務量によって事業が成り立っていることが多いため、景気の変動や親会社の事業再編の影響を受けやすい構造である点は、デメリットの一つと言えるでしょう。

業務内容の限界

特例子会社は、障害のある方が働きやすいように業務内容を標準化・単純化していることが多く、これが働きやすさに繋がる一方で、業務内容の幅が限定されるというデメリットも生じさせます。

親会社から切り出される業務は、以下のような定型的・補助的なものが中心となる傾向があります。

  • データ入力、スキャニング、ファイリングなどの事務補助
  • 清掃、緑化管理などの環境整備
  • 部品の組み立て、検品、梱包などの軽作業
  • 社内メール便の集配、名刺作成などの庶務

これらの業務は未経験からでも始めやすい利点がありますが、高度な専門知識やスキルを身につける機会は限られがちです。そのため、長期的なキャリアアップや多様なスキル習得を目指す方にとっては、物足りなさや成長の停滞を感じる原因となる可能性があります。

企業文化との摩擦

障害者雇用に特化しているという性質上、特例子会社は親会社や他のグループ会社とは異なる独自の企業文化が形成されやすい環境にあります。手厚い支援体制や配慮が行き届いた環境は大きなメリットですが、その「特別さ」が逆に親会社との間に見えない壁を作ってしまうことがあります。

例えば、物理的に事業所が離れている場合や、業務上の接点が少ない場合、親会社の社員との交流機会が乏しくなりがちです。これにより、グループ全体としての一体感が持ちにくくなったり、特例子会社の従業員が孤立感を抱いたりするケースも見られます。また、親会社の社員側に特例子会社の役割や業務内容への理解が不足していると、「保護された環境」といった偏見が生まれ、円滑な連携を妨げる一因となる可能性も指摘されています。

特例子会社で働く障がい者の実態

平均年齢と年収

特例子会社で働く方の平均年齢や年収は、企業の規模、業務内容、本人の雇用形態などによって様々です。ここでは一般的な傾向について解説します。

平均年齢

特例子会社では、新規学卒者から中途採用、定年後の再雇用まで、幅広い年齢層の方が活躍しています。特定の年齢層に偏ることは少なく、多様なバックグラウンドを持つ人々が共に働いているのが特徴です。

厚生労働省の調査(平成30年障害者雇用実態調査)によると、雇用されている障害者の平均年齢は障害種別によって異なりますが、全体として多様な年代の方が就労していることがわかります。特例子会社は長期的な就労を支援する場でもあるため、勤続年数が長くなるにつれて従業員の平均年齢も上がっていく傾向があります。

年収

年収は、個人の働き方や企業の給与体系に大きく左右されるため一概には言えませんが、いくつかの要因によって決まります。

  • 雇用形態:正社員か契約社員か、フルタイムかパートタイムかによって大きく異なります。一般的に、月給制で賞与のある正社員の方が年収は高くなる傾向があります。
  • 業務内容:専門的なスキルを要する業務か、定型的な補助業務かによって給与水準は変わります。特例子会社では定型業務が中心となるケースも多いため、その点は考慮が必要です。
  • 勤続年数:勤続年数に応じた昇給制度が設けられている企業であれば、長く働くことで年収も上がっていきます。

一般的な傾向として、業務内容が補助的なものに限定される場合、一般雇用の賃金水準と比較すると低めになる可能性はあります。しかし、障害への配慮が行き届いた環境で安定して働き続けられるという利点もあり、一概に条件が劣るとは言えません。

重要なのは、データに捉われず、個別の求人情報に記載されている給与や待遇をしっかりと確認し、自身の希望する働き方と合致しているかを見極めることです。

職務内容と業務の多様性

特例子会社の職務内容は、多くの場合、障害のある方が安定して取り組めるように設計された定型的な業務が中心となります。業務が標準化されていることで、未経験からでも安心して仕事を始めやすいという特徴があります。

代表的な職務内容には、以下のようなものが挙げられます。

  • 事務系業務 データ入力、書類のスキャン・ファイリング、名刺作成、社内郵便物の仕分け・配達など
  • 軽作業系業務 部品の組み立て、商品の検品・梱包、倉庫での在庫管理補助など
  • 環境整備業務 オフィス内の清掃、敷地内の緑化管理、シュレッダー・リサイクル業務など
  • サービス系業務 社員向けカフェの運営補助、ベーカリーでのパン製造・販売、ヘルスキーパー(企業内理療師)によるマッサージサービスなど

一方で、近年は業務内容にも多様化の動きが見られます。親会社の事業内容を反映した専門的な業務や、デジタル化の進展に伴う新しい職務も増えつつあります。例えば、IT企業の特例子会社ではウェブサイトの簡単な更新作業やデータ集計・分析の補助業務、メーカーでは専門機器を使った品質検査の一部などを担うケースもあります。

このように、基本的な職務は定型業務が主軸ですが、企業の事業戦略や障害者雇用の考え方の変化に伴い、その内容は少しずつ広がりを見せています。個人のスキルや適性を活かせる多様な業務を提供する特例子会社も増えてきており、自身のキャリアプランと照らし合わせながら企業を選ぶことが可能です。

 まとめ

社会的なニーズの変化

特例子会社が設立され始めた当初から現在に至るまで、障害者雇用を取り巻く社会的な環境や価値観は大きく変化しています。これらの変化は、特例子会社に求められる役割にも影響を与えています。

かつては、法定雇用率の達成を主眼に置き、福祉的な側面から雇用機会を創出する場としての役割が中心でした。しかし、現代では社会全体の意識が変わり、以下のような新たなニーズが高まっています。

  • 「雇用」から「活躍」へ ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考え方が浸透し、障害のある方を単に雇用するだけでなく、一人の重要な戦力としてその能力を最大限に活かし、共に成長していくことが企業に求められるようになりました。
  • 働く側の意識の変化 障害のある方自身の中にも、安定した環境で働き続けるだけでなく、専門性を高めたい、キャリアアップを目指したいという意欲を持つ人が増えています。画一的な業務だけでなく、多様なキャリアパスが求められる傾向にあります。
  • ESG経営への関心 企業の社会的責任(CSR)やESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する経営が広がる中で、障害者雇用への取り組みは、企業の価値を測る重要な指標の一つと見なされるようになっています。雇用の「量」だけでなく「質」が問われる時代です。
  • 雇用対象の多様化 近年、特に精神障害や発達障害のある方の雇用が増加しており、求められる配慮も多様化・個別化しています。従来の物理的な環境整備だけでなく、コミュニケーションやメンタルヘルスへのきめ細やかなサポートの重要性が増しています。

こうした社会的なニーズの変化は、特例子会社が単なる「受け皿」ではなく、障害のある方のキャリア開発を支援し、企業全体の競争力向上に貢献する戦略的な拠点としての役割を担っていくべきであることを示唆しています。

特例子会社の重要性の再確認

社会的なニーズが変化する中で、特例子会社の存在意義は改めて重要性を増しています。法定雇用率の達成という側面だけでなく、企業、働く障害のある方、そして社会全体にとって、多面的な価値を持つ存在として再確認することができます。

もちろん、業務内容の多様化やキャリアアップの支援といった課題も存在します。しかし、これらの課題に向き合いながら、社会の変化に対応し、進化していくことで、特例子会社は今後もその重要性を発揮し続けるでしょう。

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